特定不能の何か

医学と社会保障、国家、人生、感じたこと.

同性愛の医学的理解

 本日は休日出勤です.朝から忙しいんだけど合間はのんびり.

 割と何でも勉強してみるのが好きなので,同性愛についても勉強してみよかなと思うところだけど,医学的な文献はあまり多くないようです.どちらかというと心理学的な理解の方が主要な流れなのかなと.実際,同性愛とかトランスジェンダーは「病気ではない(=そのまま理解・受容すべきもの)」とするのが臨床の基本ではあるようだけど,一応マイノリティなので何か他とは違うところがあるんじゃないかと思う.

 Medscape にちょっとしたまとめがあったので見てみた.ちなみに元記事は10代の若者についての記事.

emedicine.medscape.com

理論

 まず,ゲイ,レズビアンバイセクシャル(GLBと略す)の理論を紹介している.先に結論を言うと,GLB に関する生物学的あるいは心理社会学的な要素は現時点でも特定はされていなくて,提唱されている理論はいずれも仮定ないし推論に過ぎないようだ.
 フロイトの理論によると,男性のホモセクシャルの形成においては,思春期に家庭内で,母親との強い結びつきと父親との敵対的関係が見られるというものである.ただし,これを実証するデータは得られてはいないのだという.
 その他の生物学的理論によれば, X 染色体上の DNA マーカーが性嗜好(志向)に関係していて,これが胎児期に母のホルモンを受けて影響されるだとか, GLB の男性の脳は,ヘテロセクシャルの脳と解剖学的に違うだとかいう説がある.また,双子の研究で,やはり生物学的因子が性嗜好に多分に影響しているとの結果があるらしい(詳細不明).
 Bell 他による,1500名の GLB の子どもたちが過ごした環境(家庭環境を含め)とヘテロセクシャルのそれを比較したところ,家族及び社会的な生い立ちは,ほぼ同等であったとのことである.
 このような研究報告に基づくと,恐らく同性愛は遺伝的因子に関連している可能性が高いということである.

 

GLB の発達段階

 GLB のティーンエイジャーは,ヘテロセクシャルと同じように思春期の葛藤を抱くが,それに加えて別の困難に直面することがある.すなわち,同性愛を許容しないような家族,宗教的指導者,友人などとの関係である.自らのセクシャリティを親友や家族から隠すことで,強い孤独感を覚えることがある.
 1988年に Troiden により,思春期の GLB の子どもたちの発達プロセス理解のための枠組みが発表されている.

第1段階 - Sensitization 感作期

 多くの GLB は,同性の友人と自分が違うことを,小児期早期に感じたことを覚えているという.そのような感覚は非特異的で性的なものでもないという.

第2段階 - Identity confusion アイデンティティの混乱期

 思春期の早期あるいは後期に,性的な興味が同性に向かい,しばしば異性に対しては興味を持たないということが起こり始める.GLB のティーンのうち,性交渉を持ち始める者も現れ始める.この10年のうちにインターネットの隆興により,チャットなどを通じて他の GLB と繋がるケースが増加した.その匿名性が有用と見なされることもあるが,危険な性交渉や,大人による性的搾取の被害に遭うことにも繋がる.

 この段階のティーンは,同性愛の感覚を否定し,変えようとすることもあり,それが GLB に対する敵対心となって現れることもある.自らの感情を隠すために,反社会的行動をとることもある.

 自らをホモセクシャルないし同性愛と認識するようになったティーンは,抑うつ,物質乱用,自殺企図のより高いリスクを負う.自らのセクシャリティを受け入れないティーンは,それを隠し,否定するのに多大なエネルギーを要し,中にはそのエネルギーを学問,スポーツ,その他の努力に昇華する者もいる.

第3段階 - Identity assumption アイデンティティの受容期

 自らを GLB と認め始める時期であり,思春期後期(18-21歳)にあたる.性嗜好を友人に打ち明けるかもしれないし,あるいは友人を,性嗜好を打ち明ける人とそうでない人とに分けて対応するかもしれない.オンラインのみでやりとりをする場合もあるが,そのようなつながりも GLB としての支援の場となったり,カミングアウトの下調べとなることもある.

 カミングアウトを自発的にする場合でも,意図せず知られる場合でも,周囲の人々に拒絶される危険性を負うことになる.家出や不登校などに繋がる場合もあり,売春や物質乱用などの高いリスクを負うことになる.支援が多く受けられるティーンでは,他の GLB との関係を築くことができるようになるだろう.

第4段階 - Commitment 関与期

 成人早期には,自らを受容し,他のゲイのコミュニティを理解することができるようになる.家族に打ち明けるのもこの時期であることが多い.自らの性嗜好を受け入れられるようになってはじめて,真の意味での親愛関係を築けるようになる.

 

(後半はあまり言及してもなあという内容なので,省略する)

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 自分自身,素地となる知識も経験もないので,和訳がかなり直訳という感じで,専門用語の付近は誤訳しているかもしれないが,雰囲気は伝わるかと思われる.

 とりあえずわかったことは,

  • GLB の原因として考えられているのは遺伝的要因>環境要因 のよう.
  • 思春期前後に自覚された GLB は,成人早期には受容に至る.

ということだろうか.

 私自身は,何となく,環境要因も結構影響しているのかも思っていたが,研究の結果からは環境要因を肯定する根拠がないようだ.そもそも GLB の診断*1自体が自覚的な「志向」ないし「嗜好」によるものなので,同じ GLB の中にもかなりの濃淡があるような気はする.なので,まじめに GLB の原因みたいなものを調べようと思ったら,まず「GLB の診断の質を担保する方法」の検討がいるだろう.

 また,GLB の自覚はかなり早期にあるっぽいことが書かれていた.いろんな話を見聞きしているとやはりそうなのだろうと思う.自分の場合は,その中でも非典型ということになるだろうな.

 GLB の各発達段階をみて思うのは,自分の好みを大切な人に打ち明けられないことはまさに,孤独を味わうことになるだろうと思う.思春期は,自立できず親に生かされて,万能感と先行き不安感が入り乱れて,学校という社会や家庭環境などに翻弄されて,本当に大変な時期だろうと思うのだけど,その中で孤独を味わうのはつらい経験のように思う.大人になって,自己を形作るものができてからならいざ知らず,そういうアイデンティティが未形成な,脆弱な心にこの経験はきつかろうと思う.インターネットが主体になりそうな気がするが,ポジティブなサポートがしっかり届くようにする必要があると思った.

 一方でやはり,ゲイ向けのキャンペーンは HIV/AIDS に偏りすぎな気はする.性嗜好というのはどうしてもセックスと切り離せない部分があるし,実際新規の HIV 患者の7割が男性同性愛というデータもある*2.ゲイって,まごう事なき HIV/AIDS のハイリスク群であり,これに介入することは妥当なことだとは思う.けれど,GLB への,もうちょっとポジティブな支援があってほしいなと感じる.生き方,人とのつきあい方,いろいろあると思うけど,普通にやっていけてるよってのを子どもたちに教える必要はあるんじゃないかなと思う.みんながガチムチラウンド髭で,抱き合ってるわけじゃないはずだよねと思う.

 

 もう少しいろいろと勉強したいなと思いますが,今日はこの辺で.

*1:こういう書き方をすると,病気っぽくなってしまうのでよくないが.

*2:IASR 38(9), 2017【特集】HIV/AIDS 2016年