特定不能の何か

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CDC レポートより:性感染症が史上最高に流行しているらしい

 本日のお仕事はノンビリ.裏で勉強しています(ツイッターも).

 

 日本は,医学を母国語で勉強できる数少ない国ではありますが,インターネット上の健康情報という観点では,情報の精度がかなり落ちていると言わざるを得ません.

 私自身,一般の方向けで健康情報を確認するときは,たいてい CDC (アメリカ疾病予防センター)の情報を参照することが多いです.制度的にあわないところ,また病気の割合についてもそのまま我が国に当てはめることはできませんが,情報公開のしかたや正確性において,優れているように思われるからです.

 最近は Google 翻訳もかなり精度があがってきているので,英語圏の情報は比較的入手しやすくはなったと思いますが,それでもなかなか面倒ではありますね・・・

 

www.cidrap.umn.edu

 

 STD(性感染症)が,かつてないほど流行しているとの報告です.2016年において米国で200万人の新たなクラミジア感染症,梅毒,淋病の発症が報告されている.

 CDC はこのレポートで,米国がこれまでに打ってきた STD 制圧の施策が実効性を失っていると,警鐘を鳴らしている.

 このレポートでは,クラミジア感染症,梅毒,淋病について,特に女性,乳児,ティーン,そして男性と性交渉する男性(MSM)がリスクグループにあげられている.
 ゲイおよびバイセクシャルの男性は,STD に新規罹患する最もハイリスクな集団であるが,クラミジア感染症に関しては,若い女性が半数を占めている.一方で,MSM は梅毒と淋病の新規患者の大部分を占めているという.
 CDC によると,2016年の男性における梅毒と診断された患者の80.6%が MSM であるということである.MSM は,抗菌薬耐性の淋菌への感染も増加している.

 また,2016年は,梅毒の罹患率が2015年に比べて全体で17.6%増加し,特に女性では35%増加した.そのため梅毒感染母体から生まれる新生児は27.5%増加した.2016年には,600件の先天性梅毒が報告され,40件の死亡または新生児期の重篤な合併症に繋がったという.
 CDC の STD 予防部門の責任者の発言として,「梅毒感染母体から生まれる赤ちゃんは,システムの破綻を示す悲劇といえる.簡単な STD 検査と抗菌薬治療により,この悲劇を防ぎ,次世代の健康なスタートを確保していく必要がある」と述べている.

 STD の治療に要するコストは年間160億ドル(約18兆円)とみられ,地域及び国家レベルでの調査が必要である.
 CDC では,STD のさらなるルーチン検査と,適切な治療を呼びかけている.

 

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 性感染症(STD)関連の啓発活動は,新しくて古いというか,ここ10年くらいのスパンで展開されてきた流れのように思います.

 ここ数年で明らかな STD 増加の流れを受けて,我が国でもいろいろなキャンペーン*1が改めて行われるようになっている印象です.

 上に紹介した記事は,米国における STD の流行ですが,我が国においても明らかな STD 増加が観測されていて,対策が必要な状況になっています.以下の推移は梅毒におけるものですが,明らかな増加が見られます*2

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出典は2.

 

 STD を考えるとき,いろいろな切り口があると思います.

  • 自分一人じゃなく,パートナーが関わることだから・・・
  • (女性の場合)症状がなくても不妊症のリスクに・・・
  • お腹の赤ちゃんにも影響があり得る・・・

 MSM(つまり,ゲイ or バイ)がリスクだと言われると,またか,と思うところではあります.確かに男性同士というのは,生物学的にも,行動面でも,いろいろリスクがあるように思います.医学統計を見ていると,「ゲイに性感染症啓発しなきゃ」と思われるのは,当然かなと思いました.

 

 STD を考えるとき,「セックスの相手が多い人の方がリスクが高い」と考えるのは,部分的に正解ではあるけれど,完全に正解ではありません.
 自分自身が決めた相手としか関係を持たなくとも,その相手の過去の相手の情報は知るよしもありません.また,多くの STD は「はじめのうちは症状がない」場合があり,その間に関係を持てば「お互いにわからない」こともあり得ます.
 つまり,セックスする人であれば誰でも負いうるリスクなので,誰もが当事者という風に考える必要があります.男同士となると,妊娠や子どもということを考えることがないので,検査するモチベーションが下がる気はするのですが,それでもやっぱり相手と自分自身のことを考えて,関係が多いのであればたまに検査するという風にするしかないのかなと思うところです.
 ヘテロの人でも,関係の多い人はかなり多いんじゃないかと思うんですが,女性ってなんだかなんだ検査をする動機があったり,機会があったりするので,そのあたりで早期発見できているような気がします*3.風俗店であっても,多くは定期的な STD 検査を行っているところがほとんどだと聞きますし.
 男性においてはやっぱり,検査の動機も機会も乏しいのが現実で,それゆえの新規感染の多さかなと思わざるを得ない.「ゲイのイメージアップに」と大上段に構えるつもりはないけれど,あなたとパートナーのことが心配なので,一度検査を受けてみて頂ければと思いました.

 

 実は私も受けたことがないので,今度やってみようかなと思ってます.