特定不能の何か

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PrEP について

 米国 CDC から,PrEP(Pre-Exposure Prophylaxis, 曝露前予防) に関するガイドラインが出たと言うことで,ちょっと話題になったようです.

www.cdc.gov

 要は,HIV に晒される前から抗ウイルス薬を内服することで,万一ウイルスに接することがあっても感染成立を予防する,というものです.

 具体的にみると,「ツルバダ」という HIV の薬(2種類の抗レトロウイルス薬の合剤で)を基本的には毎日内服することで,内服期間中の HIV 曝露があっても,最大で92%の確率で感染成立を予防できる*1というものです.ただしこの報告は,男性同士での性行為があった場合のデータで,ヘテロセクシュアルの場合は少し数字が違うようです(それでも明らかな予防効果があるということでした).

 

 この,「ツルバダ」という薬は HIV 感染症の方の治療にも使われているので,それを予防目的に投与した場合,予防にも効果があったということが実証されていると言うことで,どういう人にこの予防法が使用できるか,ということをガイドラインでは述べています.

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 この基準は全うというか,パートナーが限られていたり,お互い陰性であれば(当然のことながら)予防内服は必要ないということですね.あとは,我が国ではやはり,認識されている HIV の絶対数が少ないと言うこともあってか,相手が陽性だったということはかなり稀なのではないでしょうか.となると,我々で考えるべきは「パートナーが多いこと」「コンドームの使用が完全でない場合」が最も現実的で確認すべき点のように思われます.また,不特定多数が入り乱れるような場では,相手の HIV のステータスはわかりませんし,必然的に高リスクになると言えるでしょう.

 副作用は,嘔気,頭痛,腹部膨満感(ガスがたまる)などのようです.腎機能への負担もあるようで,定期的なチェックが必要とされています.

 

 さて,有用性と特にリスクの高い人がわかった中で,実際ひと月飲んでみることを想定します.ツルバダは日本でも発売されていて,1錠3000円強のかなり高い薬です.HIV 治療としてであれば,身体障害者手帳を取得して上限付の医療費でやれますが,予防となると基本は全額負担となって,月10万前後のお金がかかることになる見込みです.

 

 やはり,この方法で HIV を予防するというのは,医療経済的にみて難しい気がします.そこまで払ってまでセックスするか,というか,まあ誰にも見向きもされそうにない気がする方法のようです.

 

 ちなみに,これまでの話は,HIV に晒される前に予防しようというものでした.反対に,「晒されてしまってからの予防」は,PEP(Post-exposure Prophylaxis) といい,これも似たような治療です.

抗HIV薬の曝露後予防内服 PEP | エイズ治療・研究開発センター

 これまた経済的に厳しいものがあります.

 

 本当に HIV 周囲の医療は進歩がめざましく,かつての死の病といった面は薄らぎつつあるように思われます.一方で,依然として予防と根治が極めて難しく,大変にやっかいで,誰が持っているかわかりにくく,そしてかかってしまったときの心理的なダメージの大きい感染症だと思います.

 何か良い方法はないかなあと日々,悩ましいところです.

*1:

Preexposure Chemoprophylaxis for HIV Prevention in Men Who Have Sex with Men http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1011205