特定不能の何か

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Mental Health of Transgender Children Who Are Supported in Their Identities

Mental Health of Transgender Children Who Are Supported in Their Identities | Articles | Pediatrics

「自らのアイデンティティに支えられたトランスジェンダーの子どもたちの精神状態」

 トランスジェンダーの子どもたちの間で,"socially transitioned (社会的な性移行)"をする数が増えているそうだ.社会的な性移行とは,本文の定義によると,

This phrase is used to refer to a decision by a family to allow a child to begin to present, in all aspects of the child's life, with a gender presentation that aligns with the child's own sense of gender identity and that is the "opposite" of the gender assumed at the child's birth. Social transitions involve changes in the child's appearance (eg, hair, clothing), the pronoun used to refer to the child, and typically also a change in the child's name.

つまり,その子どもの家族が許諾することによって,生活のあらゆる場面で,生まれながらの性ではなく子ども自らの性自認の感覚に基づいた「反対の性」として過ごしていくことを指す.具体的には,子どもの見た目(髪型や服装),代名詞(he/she),子どもの名前などを変えることである.

 今回の対象となった子どもたちは,3-12歳の幼児~前思春期の年齢.そもそもこの年齢を対象とした質の高い研究がなかったことと,思春期および成人の GID の研究では,非常に高い抑うつ,不安,そして自殺の傾向が認められていて,何らかの心理的サポートでその傾向がいくらか改善したという報告もあった.今回はより低年齢を対象とし,なおかつ社会的な性移行を行った子どもたちに対して調査を行った.

 研究の対象となったのは73名のトランスジェンダーの子どもで,事前にトランスジェンダーと診断されている児である.対照としては,対照となったトランスジェンダーの同胞群および,年齢・性別(移行後)でマッチさせたコントロール群をそれぞれ43名,73名集めて行った.

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各群における不安と抑うつ状態の割合.表の中の数字はtスコア.

 結果は,抑うつ状態の発症については両群で差はなく,不安の発症がトランスジェンダー群でわずかに高かったという.すなわち,社会的な性移行をした前思春期の子どもたちでは,抑うつの発症は一般人口相当,不安の発症が一般よりわずかに高いことがわかった.

 この結果に対する筆者の意見としては,社会的な性移行が「自らのアイデンティティを支えることに繋がり」,精神的安定を得られるというような結論としている.

 当然このスタディデザインでは,社会的な性移行が精神状態を悪化させない原因かどうかは定かではない.社会的な性移行を行える子どもたちが,そもそも精神疾患にかかりにくい(タフさがある)可能性は十分に予測されるし,そういう子どもたちはより好ましい家庭環境・学校環境にある可能性もある.そのような交絡因子は今回のデザインでは調整し得ないので,因果にすぐ結びつけることは尚早という感じがする.

 ただそれでも,社会的な性移行を否定する理由はないと言えるように思う.トランスジェンダーであることを隠し続ける,というのは,選択肢としてありうるかもしれないが,本人にとっては少なくとも,目指すべき方向と言っていいのかもしれない.あるいは,社会的な性移行を支援するような家庭・社会の環境作りも含めた,子どもたちへの支援があるべきだとも言えるかもしれない.

 文化的な面で,すぐに我が国にも導入をとはならないだろうけれど,学ぶべきものは多いように思った.また,性自認と性嗜好はちょっと違うと思うけど,共感する気持ちが湧いた.

 ちなみに,タイトルがいい感じなんだけど,いい日本語訳が思いつかなかった~.